「じゃあ、20歳までということでお願いします」

娘は、父の返事を聞かないまま、部屋を出ました。歌手・岩崎宏美さん、十五歳。それまで父に口答えをしたことは、一度もありませんでした。

デビューして九十万枚のヒットを出したあとも、家で疲れた顔をしていると、父はすぐにこう言う人でした。「明日すぐやめろ」。けれどその父自身も、獣医を目指していた少年でした。自分の父親に会社を継げと言われ、従う他なかったのです。宏美さんがそれを知ったのは2025年。父が亡くなって、九年が過ぎていました。

父は、娘を褒めたことがありました。剣道仲間に、こう話していたそうです。「ひと皮もふた皮も向けた歌手になった」。娘には、一度も言いませんでした。2022年11月、91歳の母が亡くなる、その日。宏美さんは母に会えたといいます。「お互いの誤解を解くことができて良かった」。何の誤解だったのかは、今も分かっていません。大事な言葉だけが、いつも遅れて届く家でした。

■ チャプター
02:56 第1章 奄美大島から
05:46 第2章 プラカードが上がった日
11:42 第3章 返事を聞かなかった娘
16:01 第4章 一度だけ、声を上げた
18:51 第5章 伝わらなかった言葉
26:04 第6章 父が、娘を訴えた
29:36 第7章 増えていった写真
31:26 第8章 最後の一日
34:52 第9章 初めて知る事実

■ 参考資料
・NHK『ファミリーヒストリー 岩崎宏美 〜母から継いだ声 父を変えた歌〜』2025年12月9日放送(2025年12月29日再放送)
・『女性セブン』2012年1月23日号/NEWSポストセブン
・岩崎宏美さん オフィシャルFacebook(2016年4月4日)/オフィシャルInstagram(2026年3月30日)
・テレビ朝日『徹子の部屋』2023年7月17日放送/MANTANWEB
・日刊ゲンダイ 2015年10月10日/2019年5月31日(伊藤咲子さん証言)
・デイリースポーツ 2015年10月6日
・ねとらぼエンタ 2022年11月14日
・毎日キレイ 2023年7月17日
・ヤマハミュージック 本人インタビュー
・スポーツ報知 2026年4月29日/産経ニュース(デビュー50周年)
・剣道仲間・内田龍雄さん、藤井一さんの証言
・Wikipedia 日本語版「岩崎宏美」「岩崎良美」「思秋期」

『思秋期』が発売されたのは、1977年でした。皆様は、あの頃、どんな毎日を過ごしていらっしゃいましたか。岩崎宏美さんの歌で思い出す景色がありましたら、よかったらコメントで教えてください。『ロマンス』でも、『聖母たちのララバイ』でも。皆様の一曲を、お待ちしています。
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1 comment
  1. この家族で胸に残るのは、言えなかったことより、届くのが遅すぎた言葉です。父の本心は亡くなって9年後に知り、母との誤解は91歳の最期の日にようやく解けた。家族だからいつでも話せると思っているうちに、時間は待ってくれない。大切なことほど、今日伝えなければならないのだと考えさせられました。

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