ロストケア
監督/前田 哲(まえだ てつ)
老後の資金がありません!(21)
そして、バトンは渡された(21)
などコミカルな社会派映画や感動作でも知られる監督
今回は葉真中 顕(はまなか・ あき)の原作小説をうまく改変したシナリオ
出演/
松山ケンイチ
長澤まさみ
柄本明
鈴鹿 央士(すずか おうじ)
綾戸智恵
加藤菜津
介護の実態、生きることの尊厳
いのちの重さ、高齢化社会
さまざまな社会が抱える大きな問題を鋭く切り取った社会派映画。
原作小説はミステリー色が強かったものの、
映画化にあたって、当初から犯人を映し出しているところがポイント。
それを補う以上の演技力の高い主演の2人によって見入ってしまう映画。
孤独死の現場に一人の検事・大友(長澤まさみ)が現れる。
遺体を運び出されていく部屋の中には1枚の写真が残されていた。
訪問介護センターで働く斯波(松山ケンイチ)は新人、ベテランスタッフの3人で訪問介護に従事している。センターへの帰り道。馴染みの年配者が徘徊してしまっているのをみて、斯波はその年配者の自宅へ送り届けるなど、面倒見が良いところを見せる。そんな彼の姿に新人スタッフは敬愛を抱かずにはいられなかった。
ある日、介護サービスを受けている老人がなくなり、介護センターのセンター長の死体が同時に見つかる。同時にセンター長が立場を利用して物取りをしていることが発覚。
そのことから、このサービスセンターが訪問する年配者の死亡率が異様に高いことが判明。さらに犯人が斯波であることが明確になり、大友は斯波を取り調べをするのだが、彼は「『殺人』ではなく、『救い』だ」と主張するのだった。
高齢者問題…と一言では片付けられない大きなものであるが、この映画その高齢者。さらに認知症などを患った年配者の家族と介護従事者の現実を描ききった作品担っている。
それ故に、そこに至る経験や周りに介護経験があるかないかで見方がずいぶんと変わるし、感じるものがかなり変わってくる。
介護を必要としている人たちの尊厳と周りの家族の苦労。家族の絆と現実との苦しみ
それぞれの対比が明確に描かれている。
殺人犯であり、本人は救済者と名乗る斯波を松山ケンイチ
斯波を取り調べ、彼の言葉に正論で犯罪と断罪する検事に 長澤まさみ
この2人の対比させる演出がとても興味深い。
鏡やアクリル板に映る2人の写し方とセリフに合わせた方向の転換。
これらをじっくりと観ていると、対局にいる立場でありながらも揺れる感情と思いが撮影する手法によってぶれていく様子がつぶさに演出されている。
とくに長澤まさみ演じる大友の姿が、鏡に映り込むのが2枚であったり4枚であったりする部分は、検事として、娘として、親が認知症である立場として、親が自ら老人ホームに入り介護をしていない立場としてなど、最大で4枚の鏡に写ったシーンから、徐々に映り込みシーンが2枚になり、1枚にになり、ラストでは斯波とアクリル板を通して1つになる…が、立場は全く違うという演出にゾクリとする部分がある。
これは「死刑にいたる病」でも同じような演出が行われていたが、こちらは複数の鏡を使うことで複雑な心境の入り乱れ、揺れ動きを演出しているとも感じられる。
そして柄本明の演技の凄みというか迫力というか…がすごい
松山ケンイチ演じる息子にお願いをするところは、とてつもない迫力である。認知症と障害から自由が聞かない言語機能。だが息子に対してお願いをするこのシーンはこの映画の最大の見せ場の1つであり胸に突き刺さるシーンでもある。
しかし介護疲れによる嘱託殺人が起き、ニュースで話題になるたびに問題解決に向けての意思表示的なものがメディアで騒がれるがそれらがどう改善され、どのように良くなったのかはほとんどわからない
また生活保護の問題も、不正受給もあれば、本当に必要な人に行き届いていないと言った問題は、いままでいろいろな形でニュースなどで話題になっている。
この映画の中で描かれているように成人した子どもが健康なのであれば生活保護を受けられない…というのリアルな話しとして聞いたとこがある。
もちろん申請者全てに申請許可を出せば経済は破綻する。
しかし現実的には生活保護が全ての救いの源…という人もいる
また国民年金よりも生活保護のほうが金額的に多い…というのも劇中で語られる社会的問題の1つ
さらに介護現場の問題や介護従事者の給与問題など、介護や高齢者問題、認知症患者の問題など社会が「知っているけども明確に見えていない、見ようとしていない現実」を描いたこの作品はとても重い。
一朝一夕片付けられるものでもないし、果には尊厳死や安楽死を認めるのかどうか?といった部分まで広げて考えなければならない事案でもある
日本の皆保険制度は素晴らしく、多くの国民の多くが恩恵を受けている。
その一方で富裕層の介護とギリギリの生活の介護では天地の違いがあり、それは経験をしないとわからない部分でもある。
これらは「護られなかった者たちへ」と同様に社会に実際にある闇の部分を描いた作品である
社会には大きな穴があり、その穴からは上には這い上がれない
殺人ではない介護をしている家族を救ったのだ
という魂に訴えかける斯波の言葉をどのように受け取るか
そして若い人は想像もできないような介護の現実と数十年後に実際にその立場になる可能性がある事実を知るきっかけの一つとしてもこの映画は観ておくべき作品と言える。
そして40代以上の人は、いつかあるかもしれない現実 と想像をしていても、想像を超える大変さをイメージしてしまうかも知れない。
最期に、介護従事者の方々には最大限のリスペクトを持たずにはいられない映画でもある。
全世代必見の1本でもあります